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創作企画投稿トピ - Rain坊

2013/09/22 (Sun) 03:42:23

創作企画でつくったものをここに投稿
感想などもよかったらどうぞ

Re: 創作企画投稿トピ - Rain坊

2013/09/24 (Tue) 00:43:43

『朝方』の『生物室』で『生まれる』。
『花火』というワードを使って。



陽が昇り、小鳥たちがさえずり始めた。徹夜明けに入ってくる朝日はとてもじゃないが見てられない。僕は急いで窓の方へ駆け寄ると、黒い厚手のカーテンを勢いよく閉めた。また暗闇が生物室を覆う。
「さて、と」
 踵を返し、先ほどまで作業をしていた机に戻る。机の上には様々な実験器具が乱雑に置かれている。フラスコ、ビーカー、円錐測定器、シャーレ、メスシリンダー、顕微鏡――等々、それらが無秩序にあふれかえっている。その中において一つだけ綺麗に設置されている実験装置に目をやる。これは僕のお手製のものなので名はまだない。複雑なほどに入り組んだ管を仕込み、そこに数十種類にも及ぶ実験を同時に進行、そしてそれを上手く混ぜ合わせ、最終的に管の最終地点となるビーカーに実験の成果が出てくる仕組みとなっている。ただ装置と呼ぶにはあまりに混沌としているので今行なっている実験が成功した時にはカオスと名付けようと決めている。
 そう。今僕は実験の最終段階にきているのだ。
「くっくっく」
 思わず笑いが漏れる。高校の三年間という期間をまるまる使って行ってきたこの実験だったが、それがいよいよ終わりを迎えようとしている。これほど待ち望んだことはない。これが完成すれば僕は偉大な科学者として歴史に名を刻まれることだろう。それほどまでのことを僕はやっている。
「うぅっう」
 どこからかうごめく声がした。いよいよアレが生まれるのだ。パチパチと火花が飛び散る。様々な化学薬品の反応が出ているのだろう。ちょっとした花火のようで綺麗だった。まさに実験に相応しい。まるで僕の成果物であるアレが誕生しようとしているのを祝っているかのようだ。
 バチィイ!!
 一際大きい火花が出た。
 もうすぐだ。我が野望はこれでなされるのだ。
「うううううぅぅっがああぁ」
 唸り声がよりはっきりと聞こえるようになってきた。
「さあ、仕上げだ」
 僕はスポイトを手に持った。そこには特殊な液体を入れてある。それをピーカーに一液たらせば完成だ。スポイトを持っている手が震えている。歓喜のあまり繊細な動きができないようだ。構わない。もう、そんな作業を終えてしまっている。ここらで多少の失敗をしようが間違いはない。完璧だ。さあ、早く僕の前に姿を現せ。
 ぴちょん。
 スポイトから液体が出る。すると凄まじい爆発音が鳴り響く。衝撃はカーテンを吹き飛ばし、生物室中の窓ガラスを全部突き破った。爆発の影響なのか煙が出て、見通しが悪い。しかし僕は一言、
「ハッピーバースデイ」
 と呟いたのだった。実験は成功したのだ。
 今日という記念すべき日に、僕は人間を生み出すことに成功したのだった。

Re: 創作企画投稿トピ - 6

2013/09/22 (Sun) 03:50:43

『7月』の『車内』で『脱がせる』。
『わくわく・懐古・清潔感』というワードを使って。
+絵画 「ジャガイモを食べる人々」ゴッホ

「インドの北の高原を列車で走っているときだった。おれは目の前に絶世の美女をみかけた。列車と列車をつなぐタラップでおれたちは一瞬すれちがった。乙女の後ろ髪から薫る甘いベルガモットの柑橘系の匂い。おれは眩暈がしてあやうく走りさる列車から振り落とされそうになり、ひどくあせった。タラップの向こうで女はほほ笑んで見返していた」
おじさんの前に紅茶が置かれる。おばさんが注いだ黒い紅茶だ。
「お月さまの出ている真夜中にアールグレイか。アールグレイを飲むたびにその光景を思い出すね」酔ったようにおじさんはそう続ける。目の前に淹れられた紅茶はアールグレイではなかったのに、人民帽をかぶった僕のおじさんはそれをアールグレイといってきかなかった。僕が何度あやまりをただしてもおじさんは断固としてそれを認めなかった。おばさんが僕に目配せをして僕はおじさんの言に納得するふりをした。おじさんは勝ち誇ったように話の続きをはじめる。こんな辛気臭い夜ははじめてかもしれない。おじさんの話ほどわくわくしないものはない。だってそれが全部うそだって皆が知っているもの。偽物の話なんかじゃちっとも退屈をつぶせない。おじさんはいかにも懐古趣味の老人のように昔の話をはじめるが、少しも整合性のとれないことばかりだ。
「あれは真夏だったことは憶えているんだ。七月も、もう終わりの頃かもしれない。太陽の熱射によろめきながら、おれはもう一度女を見ようと目を凝らす。ところが女は白い帽子をかぶったまま向こうの車内に消えていくんだ。おれは列車のゆれに戸惑いながらも、女のあとを追う。清潔感のある服の着こなし方をどこかで見た気がしてきたんだ。ずっと過去に見た覚えがあってね。それがどこから来たのかは女の顔をもう一度のぞきこむまでは分からなかった。おれは肩をつかんで女にこちらを向かせた。女は恥ずかしそうにしている。さっと帽子をとって女の顔を覗きこむと、おふくろにそっくりだったんだ」
 こうして皆で茹でたじゃがいもを食べるのは死んだ僕のおばあさんの命日だけ。供養のために親戚があつまっておばあさんの好物だった茹でたじゃがいもを食べる。他のひとは無心になって食べているのに、おじさんのほら話はいっこうに止まるようすを見せない。埃だらけのランプのまわりを一匹の白い蛾が舞っている。僕にとっておじさんは炎に誘われる蛾のように愚かに見えた。

Re: 創作企画投稿トピ - Rain坊

2013/09/22 (Sun) 03:43:52

『7月』の『車内』で『脱がせる』。
『わくわく・懐古・清潔感』というワードを使って。
         +
絵画 ゴッホ「ジャガイモを食べる人々」


「早くしな、この愚図」
「何言ってんだい、うすのろなのはあんただろ」
「どっちもどっちさね」
「ばかだね、あんたたち。それならわたしがもらうよ」
「…………」
 ランプの灯だけが照らす、そんな薄暗い中。お姉さまたちの罵声が今宵の夕食時にも飛び交っていた。言葉と共にフォークがあっちこっちに行き交うこの場において私だけが何もしていなかった。お皿に盛ってあるじゃがいものバター焼きをただただ眺めるだけだった。お腹はとうに空腹で、よだれで誤魔化すばかりだ。
「何だいあんた。そんなにじっと見て」
「あんたは末子だからねぇ。私たちが食べ終わった残りを食べるんだよ」
「かわいそうだねぇ~、ほんと」
「ばかだね、そう言うなら食べる手を休めなよ。まっ、私は食べるけど」
 蒸し暑く、頭巾を被っている頭から汗がにじみ出てくる。そうだ、これは暑いだけなのだ。汗が目を伝って流れているだけなのだ。

「満足満足」
「いまいちだったけど、まあ量はあったね」
「外に遊びに出ますか」
「あんたが食ったら片付けしておいてよ」
 夕食が終わり、お姉さまたちはぞろぞろと外に出て行った。いよいよ私の番がやってきた。じゅるりと密かによだれを呑み込む。私はわくわくしているのだ。お皿にはお姉さまたちが食い散らかして欠片しか残っていないじゃがいものバター焼き。ちょこっとしか残っていないけど、それでも私はわくわくしていた。なんたってじゃがいものを食べるのが久し振りだったから。
 スプーンで欠片をすくい取る。バターで装飾されたじゃがいものは、ランプの光に照らされて宝石のようにつやつやと輝いている。私はそれをひと通り眺めると、ぱくりと口にいれた。
「ん~!」
 思わず頬に手をやってしまう。おいし過ぎて頬が落ちるかと思ったからだ。それほどまでにじゃがいものバター焼きはおいしかった。
 その味を噛み締めると同時に、私は懐古した。お義理母さまが生きていらっしゃった頃に一度作ってくれたのだ。あの時の感動は今でも覚えている。
そういえば、あの頃は今のように清潔感がない夕食風景ではなかった。
お義理母さまは優しかったが、人一倍厳しい人だったのだ。マナーや行儀といったものには特に厳しかった。恐らく、今の夕食の現状をお義理母さまが見られたら、怒り狂うことでしょう。そしてお姉さまたちと私のスカートを脱がせて、麺棒で思いっきり叩くことでしょう。それほどまでに今は酷い。
いつからだろう。
お姉さまたちが変わられてしまったのは。
昔はみなさまお優しい方たちばかりだった。礼儀正しく、折り目正しく、品行方正で淑女の鏡とまで言われている方たちだったのだ。そんなお姉さまたちだったから私は尊敬していた。勿論、その頃から多少のわがままはあったけど、そんなの今と比べたら些細なものです。本当にいつからだっただろう。
それこそお義理母さまが亡くなられてからかもしれない。
思い出した。お義理母さまの葬儀のときだ。墓地に向かう途中の車内で、だ。そこであの方たちは変わられた。若々しい手入れが施された肌は艶を亡くし、しわを寄せ付けるようになった。あれほど上品だった言葉は見る影もない。
そうだ。その頃だった。彼女達が町のみなさんから『魔女』と呼ばれるようになったのは。
いつになったらお姉さまたちは元に戻るのだろうか。
いつになったらお優しいあの時のようになるのだろうか。
そんなことを考えながら私は欠片をすくう。

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